カーレビュー

 「いくらなんでも小さすぎやしないか」「2シーターってどうなのよ」「ニッチカーでしょ」、リストウォッチ・ブランドのスウォッチと当時のダイムラー・ベンツが手を組んで登場した初代スマートはあまりに個性的で、そしてあまりに先進的なコンセプトを持っていたためそんな声が多数を占めた。当初は販売もぱっとしなかったようだが、徐々に都市部のユーザーにその価値が認められ、呼称がフォーツークーペやフォーツーカブリオに改められた2004年頃になると一気に大ブレーク。瞬く間にイタリアやフランスの大都市圏では街を埋めつくすほどの一大勢力となった。そう、実際に通勤などに使ってみたら、とても便利で経済的、そして安全性も高かったのである。彼の地では「エコロジー&エコノミー」の切り札はハイブリッドカーでもブルーテックでもなくスマートなのだ。

 大ヒットを記録してコンパクトカーのメインストリーマーとなった先代C450が7年ぶりのフルモデルチェンジを果たしたのは2007年。中核モデルのスマート・フォーツークーペと人気のスマート・フォーツーカブリオが導入された。最大のトピックはボディの大型化だ。全長2720×全幅1560×全高1540mmのスリーサイズは、先代のベースグレードと比較すると180mm長く、45mmも広い。これはキャビンの快適性を向上させることが主な目的ではなく、アメリカの厳しい衝突安全基準をクリアするための方策だったと言われている。

 リアのラゲッジルーム下に積まれるエンジンも刷新された。先代と同じ直列3気筒を採用しているものの、排気量が1.0リッターに拡大されスムーズネスと力強さを飛躍的に向上させたのである。71ps・9.4mkgのパワーとトルクは数字だけ見ると「大丈夫なの」と心配する方が多いと思うけれど、車重は僅か810kgなのだ。アウトバーンの左車線を走るのなら話は別だが、日本の道路環境で痛痒を感じるシーンはまずないだろう。とにかく全域でスムーズ&トルキー、もちろん100km/h巡航も軽快にこなす。組み合わされるセミATも従来のザックス製6段からゲドラグ製5段に換装。先代はATモードにおけるシフトアップ時のギクシャク感が弱点だったけれど、ギアリングの変更などが奏功していわゆる息継ぎをする間が見事になくなった。

 そして、桁違いに良くなったのが乗り心地だ。突き上げ感がかなり緩和されているし、左右に揺すられることもほとんどない。もちろん、サスペンションにブラッシュアップが施されているのだろうが、ボディ全体で路面の凸凹を吸収しているような奥深さが感じられる。特に高速でのドッシリ感はマイクロカーの枠を超えグランドツアラーの域に達している、というのは言い過ぎではなくホントの話だ。ただし、ホイールベースが短いからある程度のピッチングは覚悟しておいたほうがいい。ただしそれも許容範囲を超えるものではない。

 ところで、最新技術が採用された「さらにエコなモデル」が導入されていることも忘れないでほしい。2008年12月にリリースされたmhd(マイクロ・ハイブリッド・ドライブ)は、ブレーキを踏んだ状態で速度が8km/h以下になるとクルマが完全に停止する前にエンジンが自動でストップ、ブレーキペダルから足を離すと再び始動するアイドリングストップ機能を備えているモデル。もちろん、真夏の渋滞などエアコン性能を最大限に使いたいときはECOスイッチをオフにしておけばエンジンはストップしない。メーカーの発表するmhdの燃費(10・15モード)はなんと23.5km/L!ちなみにmhdはフォーツーカブリオにも設定されている。今後、mhdはスマート認定中古車の中心になるからぜひ注目してほしい。

スマート・フォーツークーペ mhd
(2007-2011)

●全長×全幅×全高:2720×1560×1540mm ●ホイールベース:1865mm ●車両重量:830kg ●エンジン形式:直列3気筒DOHC、999cc ●最高出力:71ps/5800rpm ●最大トルク:9.4mkg/2800rpm ●変速機:5段AT ●駆動方式:後輪駆動 ●タイヤサイズ:前155/60R15、後175/55R15