ところでルノースポールって何なのよ?という方もいらっしゃるかもしれません。まずはサラッとご説明しておきましょう。もともと独立したモータースポーツ部門を持たなかったルノーは、レース活動や一部のスポーツカーの開発や生産を名門チューナーのアルピーヌやゴルディーニなどに委託していました。名車A110などがルノーのエンブレムを掲げてはいるものの、アルピーヌやゴルディーニと呼ばれるのはそのためです。で、これらのチューナーを買収するかたちで、1973年に設立されたのがルノースポール。レース活動はもちろんのこと、その技術を市販車にフィードバックしてコンプリートカーを開発・生産しているのです。本拠地はアルピーヌの本社/工場があったフランス・ノルマンディのディエップ。だから、ルノーフリークたちは「ディエップ」の名でテンションが上がってしまうわけです。
さて、ルーテシア・ルノースポールV6とはどんなクルマなのでしょう。アイコンになっているボディサイドのレーシーなカウルの装着にはもちろん理由があります。なんと、通常は後席が装着される位置にラグナ用3リッターV6をライトチューンした24バルブユニットが横置きのままマウントされているのです。つまりこのクルマ、FFではありません。ミドシップの後輪駆動車。すごいですねー、後席を取り払ってエンジンを積んじゃったのですから。こんな離れワザをやってのけてカタログモデルにしてしまうあたりはさすがルノー、度胸があります。「考え方とやり方はアレといっしょかも」と思った方はクルマ好きですよね。そう、名車・サンク・ターボです。ルーテシア・ルノースポールV6は21世紀に降臨したサンク・ターボの末裔と言っていいかもしれません。
ただし、サンク・ターボとの最大の違いは、ルーテシア・ルノースポールV6って普通に走らせれば普通に使える実用性と信頼性を持っていること。しなやかで乗り心地がいいし、V6エンジンも神経質な面がまったくない。見た目はかなりスパルタンですが、乗ってみると野蛮さがなくて実に気持ちいいわけです。でも、調子にのって不用意にガバッとアクセルを踏み込めばリアタイヤは唐突にグリップを失いますので、運転にはそれなりの緊張感が必要になります(特にフェイズ1は要注意)。
中古車選びのポイントになるは2004年に実施されているマイナーチェンジ。それまでのフェイズTは前述したトリッキーな面が多くのシーンで顔を出してハイペースで走るには高度なドラテクが必要になるのですが、マイチェン後のフェイズ2では見事に調教、というか封印されて操縦安定性がグッと良くなったのです。これにも逸話が残っています。実は、フェイズ1はスウェーデンのトム・ウォーキンショー・レーシング(TWR社)が開発と生産を担っていたのですが、フェイズ2ではルノースポールの本拠地であるディエップに生産ラインを移して操縦性やクオリティに磨きがかけられたのです。ファイズ1はワンメイクレース用のベース車両、フェイズ2はルノースポールのエンジニアがプライドをかけて煮詰めた第一級のスポーツカーと言えるのもしれません。
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