さて、なぜ930カレラがポルシェ乗りから「一生に一度は乗っておきたいスポーツカー」として崇拝されているのか。それはもう、硬派な走りの世界観にあることは間違いないでしょう。ポルシェのエンジニアたちが、「私たちは快適装備に貴重な生産コストを使わない。ほとんどすべての予算は動力性能を向上させるためにある」と言い切っていた時代の911ですから、快適性などまったく、いや、ほとんど考えられていません。
オルガン式の重たいクラッチペダル(特に発進時にはコツが必要)、スムーズに変速するためには適正な回転数を保つ必要があるトランスミッション(高すぎても低すぎても入ってくれません)、路面からの入力を容赦なくダイレクトに伝えてくるサスペンション(一般道はかなりきついです)、もう930カレラに比べれば現行の991カレラなんて高級サルーンみたいなもの。タイヤなんて純正は15インチですよ。タイヤにも電子デバイスにも頼れないわけですから、上手に速く走らせるためには自分の腕を磨くしかないわけです。
でも、リアに凄むカミソリのように鋭い切れ味を持つ空冷フラットシックスを手懐けられたときの喜びは、必ず「このクルマに出逢って良かった」と思わせてくれるはずです。それは、クルマ好きだけが分かる魅力であることは間違いありません。
つまり、930カレラの操作には、クルマをスムーズに速く走らせるための基本が詰まっているんです。経験から言って、930カレラを普通に走らせることができれば、フェラーリであろうとランボルギーニであろうと、まったく怖くありません。普通に運転できるようになります。
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