F1を筆頭にレースシーンでは揺るぎない記録を残すばかりか、また市場ではスポーツカーフリークを虜にする。が、ここ日本ではなぜか今まで馴染みが薄い。まだ知らない人も多いだろう、オランダに生まれたスポーツカーメーカー「SPYKER(スパイカー)」を今回は取り上げる。 ALMS(アメリカン・ル・マン・シリーズ)やル・マン24時間、FIA GT選手権などに挑戦してきたマシンの基礎となるC8が、ここ日本に2台ほど生息しているのである。正式名称はC8 Laviolette(C8ラヴィオレット)。初発の発売から既に10年以上が経過して本国では既に次のモデルに切り替わったが、日本ではまだ新車に近い車両が販売されていた。観光やビジネスで訪れた人の多くが「なぜ、これが日本にあるのか?」と驚くという。早速、アトランティック・コレクションに赴いて実車と対面した。 母体にアストンマーティンの正規販売店「アトランティックカーズ」を持つ彼らである。アトランティック・コレクションでは、アストンブランドに縛られない自由な空間を構築し、世界中から選りすぐったクルマを集めて提供する意向を持つ。スパイカーは彼らがインポーター活動を展開することがあって、まさに格好の存在だ。今回、デモカーとしての役目を終えた1台に焦点を当てて、C8という存在を捉えてみたい。 無煙炭色の意を持つアンスラサイトの外装色に、跳ね上げ式のガルウイングドアを持つ引き締まった身体が目に飛び込んでくる。内装を覗くと鮮やかなファラオ(タン)色のレザーインテリアが構築されている。驚くべきは子細にわたる作り込みだ。十字型のステアリングやキルティング加工されたレザーの仕上げ、クロノスイスの手により製作されたというメーターやダイヤル類など、どこを取っても伝統工芸品として完成している。テールパイプやフィラーキャップまでもがロゴや模様によってデザインされる点には言葉もない。スポーツカーであってもデジタルや効率的設計一辺倒の昨今に、ここまでアナログで手間暇かけて作りあげた“美”にはため息が出る。
十字型のステアリングがまず目に飛び込むが、メーターやダイヤル類はクロノスイスの手による製作された特注品だと分かる。キルティング加工されたレザーシートとアルミの質感には惚れ惚れする。ミッションは6速MTだ。
バケットタイプのスポーツシートにも上質なキルティング加工が施され、座り心地は上々だ。着座位置はレーシングカーっぽく低いが、天井がガラス張りで、かつファラオレザーによる明るい車内のおかげで圧迫感はまるでない。
ミドシップながらリアには必要最低限のラゲッジルームが備わる。底が高く絶対容量はさほどでもないが、大人二人の小旅行なら充分可能である。なによりびっしり敷き詰められたキルティング加工の内張が満足感をくすぐる。